嫡出否認の訴えに関する最高裁判所の決定がでました
1 嫡出の推定に関する民法の規定
民法第772条1項は、「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する」旨規定しています。
また、民法第772条2項は、「婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する」旨規定しています。
2 嫡出否認の訴え
民法第774条は、「第772条の場合において、夫は、子が嫡出であることを否認することができる」旨規定しています。
このように、嫡出の推定を受ける子が嫡出であることを否認することができるのは、夫だけです。
民法第775条は、「前条の規定による否認権は、子又は親権を行う母に対する嫡出否認の訴えによって行う。親権を行う母がないときは、家庭裁判所は、特別代理人を選任しなければならない。」旨規定しています。
このように、夫による嫡出の否認は、嫡出否認の訴えによって行います。
したがって、妻や子は、嫡出否認の訴えを提起することができません。
3 最高裁判所の判断
令和2年2月7日、最高裁判所は、嫡出否認の権利を夫だけに認める民法の規定は、憲法に違反するとして、国に損害賠償を求めた訴訟において、上告を退ける決定をしました。これで、民法の規定は、憲法に反しないとして、原告の請求を認めなかった一、二審判決が確定します。もっとも、最高裁判所としての憲法判断は示しませんでした。
4 まとめ
嫡出否認の権利を夫にだけ認める民法の規定が合理的か否かは、議論があるところだと思います。
民法第772条の趣旨は、父子関係を早期に安定させる趣旨であると考えられます。
一方、夫の子でないにもかかわらず、夫が協力しないため、戸籍では、夫の子となったままになるケースもあると思います。また、戸籍に夫の子と記載されることを避けようとして、無戸籍となる子もいると思います。
今回の最高裁判所の決定をふまえて、嫡出否認の訴えに関する法律改正の議論が、今後進む可能性もあると思います。